古典の知識を問い直せるように:「斗轉録」1.9 文化学習アシスタントプレビュー
斗轉録 1.9 に文化学習アシスタントのプレビューを追加。自然な対話で干支の時法、易経の構造、五行説を解説しつつ、AIとプライバシー、文化ツールについての私の考えも綴る。
「斗轉録」を作っているとき、ずっと解決しづらい問題を抱えていました。
星図は描けるし、干支は計算できるし、易経の卦象も一つずつデータベースに収めることができる。でも、こうした概念に初めて触れる人が「二十八宿」「六十四卦」「五行生剋」といった言葉を見たとき、やはり入り口の前で立ち止まってしまうことが多いのです。
データは、必ずしも理解を意味しない。
これまでのやり方は、アプリ内に説明ページを増やすことでした。しかし、説明ページをどんなに充実させても、一人ひとりの疑問に応えるのは難しい。今の時刻がなぜこの干支なのか知りたい人もいれば、保存された記録を見て、当時の文化的背景を問いかけたい人もいる。また、ただ見慣れない言葉に興味を持っただけで、教材を一冊読み通したいわけではない人もいます。
そこで、1.9 版では「文化学習アシスタント」の最初のプレビューを追加しました。
結論を押し付けるのではなく、一緒に問いを明確にする
このアシスタントに最初に求めたのは、「何でも答えられる」ことではなく、自分がどこに立つべきかをわきまえていることでした。
主に自然な対話を通して、斗轉録に登場する古典的な概念を解説します。干支がどのように時間を記録するのか、易経の卦と爻がどんな構造なのか、五行説がどのように相互に関連する分類体系を形作ったのか。こうした内容は、学び、調べ、考えるために適したものであり、ユーザーの運命を確定的に予測するためのものではありません。
この線引きは、私にとってとても重要です。
古典の知識が面白いのは、まさにそこに、古人が時間・自然・人事を観察した方法が保存されているからです。それを一言の吉凶判断に圧縮してしまえば、本当に理解する価値のある部分が失われてしまいます。
一条の記録を、問いの出発点にする
1.9 版のもう一つの試みは、保存済みの記録を会話に添付できるようにしたことです。
以前は、日記を一つ書くと、自動的にその時の干支と月宿が付いてきました。それは時間の標本のように、ある瞬間の天文・暦法の背景を忠実に記録していました。今、この標本は問いの文脈にもなり得ます。アシスタントに登場した概念を説明してもらい、文化史的な意味を理解することができるのです。
私はこのインタラクションがとても好きです。何を聞けばいいのか分からない空白のチャット画面を開くのではなく、自分が実際に記録した一日を出発点に、少しずつ外側へ広がっていく。そんな感覚です。
一条の生活記録が、それゆえに、二千年前の時間感覚とつながるのです。
AI は個人の記憶からどこまで近づけるべきか
AI を日記アプリに組み込む以上、プライバシーは避けて通れない問題です。
そこで、対応デバイスでは、文化学習アシスタントを Apple Intelligence を通じてオンデバイスで実行できるようにしました。回答を生成するために、データが端末の外に出る必要はありません。別のモデルを使いたい場合は、ユーザー自身がクラウド上の Totenroku AI に切り替えることもできます。
私は、全員に同じ選択を強いるつもりはありません。オンデバイスモデルは個人のデータに密着し、安心感があります。一方、クラウドモデルは別の能力を提供するかもしれません。選択肢を明確にユーザーに委ねることこそ、両者に違いがないふりをするよりも誠実だと思います。
これは 2.0 への第一歩にすぎない
1.9 は、まだ文化学習アシスタントの完成形ではありません。どちらかといえば、まず扉を開けて、皆さんがどんな問いを携えて入ってくるのかを見てみる、そんな段階です。
対話のテンポが自然か、解説の深さはどれくらいが適切か、どの概念が誤解を生みやすいか、そして、個人の記録を適切に説明するにはどのくらいの背景知識が必要か——こうした問いは、開発者が画面の前で座って考えているだけでは、なかなか答えが見えてきません。
だからこそ、これをプレビューとして 1.9 に組み込み、実際の使用から得られるフィードバックをもとに、2.0 で完全な体験を作り上げていきたいと考えています。
星図から日記へ、そして日記から問いかけることのできる文化的文脈へ。斗轉録はまた、最初の構想に少し近づいたように思います。それは、古代の空を展示するだけでなく、今日を生きる人々に、その空へと歩み入る道筋を提供することなのです。